『水族館の本』2


子供の頃から水族館と本は、私に夢を見させてくれるものでした。
海にまつわる本は沢山読んだ記憶があります。
『コンチキ号漂流紀』とか『いたずらラッコのロッコ』とか
『パラオの海と珊瑚礁』とか。

『いたずらラッコのロッコ』は、私が小学生の頃に読んだ本です。
そのころまだ日本にラッコは一匹も居なかった頃で、
「海に浮かんで生活してる動物で、石持って貝割って食べるの」って
友達に説明しても「そんなの本の中だけでいてへんわ!」と、にべもなく
言われた時代でした。(いくつなんだ?って、考えないでね)
その本は学校の図書室から借りた本だったので、その後
忘れてしまっていました。

しばらくすると本物のラッコが日本の水族館にやってきて、また私は
アノ大好きだった本を思い出しました。
本物のラッコを見て、もう一度読んでみたくなったのです。
でも色々探したけれど、本には出会えませんでした。
どうも心の中のラッコと、本物のラッコは出会えない運命に
あるようでした。

そして数年前、水族館で本のことを訪ねてみる機会がありました。
すると、「それなら、ありますよ」と、
いともあっさり思い出の本と再会してしまったのです。
長年の時を経て記憶の向こうから戻ってきた本。
私にはチョッピリうるうるするぐらい愛おしかったです。
ラッコを知らないで読んだラッコの本は、ラッコを知っている今も、
私に素敵な夢を見せてくれました。
もちろん本を読んだ後は、また本物のラッコを見に行きました。
ラッコってこんな感じだったっけ?
すごくおかしな言い方ですが、いつも見ているはずのラッコが、
そのとき何故か、いつも以上にラッコだったのです。

「出会えて良かったね」って、
アクリルの向こうのラッコと、私の心に住んでいるラッコが、
そう言って笑っているように思えました。